前回の記事に引き続き、今回は、「契約書を作成するときに何を注意しなければならないのか」を説明します。

 

契約書を作成する際の注意点については、多くの弁護士がweb上で解説をしています。

そこで、今回は、多くの弁護士が行っている一般的な解説ではなく、私の業務経験に基づき、弁護士を関与させずに契約書を作った際の失敗例をお伝えしたいと思います。

 

1.契約する相手方の取り違えや本人確認の不足

 

法人と契約したはずが、代表者個人と契約書を交わしていたという例を目にしたことが有ります。また、契約したつもりの会社の実印が押されておらず、後になって、そのような契約書など作成した覚えはないと指摘されてしまった例も目にしたことが有ります。

 

このような事態を避けるためには、契約の相手方を取り違えないよう、明確に特定して記載したうえで、契約当事者の実印を押印させる必要があります。

例えば、法人との契約の場合、法人所在地、法人名、代表取締役の肩書及び氏名を全て記載し、実印を押印して、全部事項証明と印鑑登録証明書を交換する方法が確実です。

 

2.契約書の日付が未記入又はバックトゥーデート

 

契約書の作成日付が記入されていないという例を目にしたことが有ります。また、契約書の作成日付が遡っていて、他の契約条項と矛盾している例も目にしたことが有ります。

 

契約書の作成日付は、原則として契約の法的な成立日を特定するものですから、できる限り正確な日付を記載することが望ましいです。

契約書の作成日付を遡らせることが絶対にダメということではありませんが、契約の効力を不安定にしないため、他の契約条項とは矛盾しないようにしなければなりません。

場合によっては、契約書の作成日付は正確に記載し、契約条項で契約の効力発生日を遡らせる方が適切なこともあります。

 

3.使用した契約書の雛形が不適切

 

web上で見つけた契約書の雛形を使用したが、適切な契約類型のものではなかったという例を目にしたことが有ります。また、web上で見つけた契約書の雛形が相手方に有利な内容のもので、自分に不利な内容なものだったという例も目にしたことが有ります。

 

このような事態を避けるためには、まずは自分が交わす契約の内容が法的にどのような類型に属するのかを慎重に検討しなければなりません。特に、請負と委任とは、区別は曖昧な一方、法的な権利義務には違いが有るので、注意を要します(もう一歩先の探求)。

また、web上で公開されていたり、業界団体が提供していたりする雛形は、どちらか一方に有利な内容になっていることが多いので、使うときには注意しなければなりません。

契約書の雛形を見つけたからといって、それに飛びつくことはやめて、本当に適切な契約書なのか、じっくり読みこんで慎重に検討しましょう。

 

4.金銭面の記載が不明確又は不十分

 

対価の支払基準が明確に記載されておらず、何をもって仕事の完了(又は納品)となるかを明確に定めていなかった例を目にしたことが有ります。

また、消費税の取扱い(税込又は税別)を明記しておらず、後に見解の相違が生じてしまった例も目にしたことが有ります。

 

このような事態を避けるためには、どのような仕事を行うのか、どのような条件で対価を算定するのか(工数払いなのか、成果払いなのかなど)、いつどのような方法で代金を支払うのかなどといった基本的な事柄を、明確に定めておかなければなりません。

また、何かしらのモノを納品する仕事であれば、納品時期・方法・場所、検収方法・期限などを契約書に定めて、円滑に仕事が進んでお金に代わるように段取りを組まなければなりません。

消費税の取扱いの記載漏れは、頻繁に目にします。薄利多売の事業スキームの場合、これが原因で利益が吹き飛ぶことも有り得ますから、必ず確認して明記しましょう。

 

5.契約期間や契約終了時の取り決めが欠如

 

契約期間が明記されておらず、契約の継続又は打ち切りの判断が難しくなってしまった例を目にしたことが有ります。また、契約が途中で破談になった場合の解約条件を定めていなかったため、深刻な紛争に発展してしまった例も目にしたことが有ります。

 

このような事態を避けるためには、契約期間と更新方法を契約書に明記する必要があります。この際に、どちらが契約の継続又は打ち切りの判断権を持つのか、自動更新するのかなどを検討して、契約の拘束力を調整していくことになります。

継続的な契約では、契約終了時の金銭的な精算条件を明確にしておかないと、契約途中で破談に終わった場合に深刻な紛争に発展してしまいます。

また、事後的な紛争を回避するために、必要に応じて、契約終了後の双方の義務(秘密保持義務や競業避止義務など)を定めることも大事になってきます。

 

もう一歩先の探求

フリーランスや小規模事業者が頻繁に締結する「業務委託契約」は、民法上の請負契約に該当するのか、委任契約に該当するのか、曖昧であるケースが多くあります。

請負契約とは、当事者の一方がある仕事を完成することを約束し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約束する契約です。報酬の対象である仕事が不可分であれば、仕事が完成するという結果が出ない限り、報酬を請求することはできません。

これに対して、委任契約(正確には準委任契約)とは、当事者の一方が事務を行うことを相手方に委託し、相手方がこれを承諾する契約であり、特約で事務又は成果に対して報酬を定めることができます。

請負と委任の最も大きな違いは、請負の場合、仕事を完成させて結果を出したことに対して報酬が支払われることにあります。仮に、仕事の内容に問題があれば、返品交換、再納品、補修、損害賠償などの責任を負う可能性があります。

委任の場合、成果に対して報酬を支払うと合意した場合であっても、依頼された仕事が完了さえすれば、たとえ依頼元が期待していた結果が出なかったとしても、報酬を請求できます。委任を受けた側は、仕事を完成する義務を負うのではなく、仕事を遂行するにあたって善管注意義務を負うに留まります。

これだけ読むと仕事を受ける側としては委任の方が有利なように思えますが、契約の類型は当事者が勝手に決められるのでもなく、仕事の内容によっては請負であるとしか解釈できないこともあります。

大切なことは、これから進める仕事がどのような法的な類型に該当するかをしっかり理解したうえで、契約当事者である自分の権利義務を事前に理解して、正しくリスク評価しておくことだと言えるでしょう。

 

弁護士 権藤理俊(ごんどう みちとし)

早稲田大学法科大学院卒。権藤法律事務所所属。不動産・建築・卸売・小売・通信・飲食・宿泊・フランチャイズ・サービス業等、複数事業者の法律顧問を務め、新規事業の立ち上げにかかるリスク評価や契約書作成業務に日常的に携わる。

 

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