和紙の産地は全国津々浦々存在しています。

全国手漉き和紙連合会による産地だけでも41都道府県の75の和紙が存在しています。

今回はそのなかでも、ユネスコに登録されている和紙3種と伝統的工芸品に指定されている9種を紹介いたします。

ユネスコに登録されている和紙

2014年11月27日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)は、「和紙 日本の手漉き和紙技術」を無形文化遺産に登録しています。登録された和紙は、原料に「楮(こうぞ)」のみが使用されており、伝統的な技法を用いて作成されるものになります。この条件で登録されているのが、「石州半紙(せきしゅうばんし)」(島根県浜田市)と「本美濃紙(ほんみのし)」(岐阜県美濃市)、「細川紙(ほそかわし)」(埼玉県小川町、東秩父村)の3つの和紙になります。
※このうち石州半紙は2009年に無形文化遺産に登録済みで、2013年に日本政府が、本美濃紙と細川紙を加え3つを改めて「和紙」の技術として登録し直すようユネスコに提案。

 

石州半紙(せきしゅうばんし)

島根県浜田市。
10世紀初めには既に製紙が行われ、江戸時代には、 石州で漉かれる半紙という規格(大きさ)の紙が、大坂商人たちの帳簿用紙として重用さ れ、石州半紙の名が広まった。石州半紙の特徴は、3,000回以上折り曲げてもちぎれない 強靱さであり、これは、独特の原料処理方法である楮の皮を、あま皮の部分も残して削ぎ取り使うことで強靭な和紙が生み出されます。
用途は、障子紙や書画用紙などがあります。

石州半紙技術者会・石州和紙協同組合

 

本美濃紙(ほんみのし)

岐阜県美濃市。
12世紀頃の平安末期から鎌倉初期に美濃市の牧谷地区付近に紙づくりの技術が伝わったされており、江戸時代になると障子紙が、丈夫なうえ質の良さでも定評があり全国的に名を馳せました。本美濃紙の特徴は白く美しい、強いのに柔らかみのある独特の肌ざわりがあります。
用途は、障子紙を主として、記録用紙、文化財保存修理用紙などがあります。

本美濃紙・本美濃紙保存会

 

細川紙(ほそかわし)

埼玉県小川町・東秩父村。
宝亀5年(744年)の正倉院文書に武蔵紙の記録が見られることから、1300年以上の歴史があると言われています。「大河原紙」あるいは「小川紙」と呼ばれていましたが、江戸時代になると大都市江戸の住人や商人が増え、紙の消費も増加したことにより紙の一大消費地である江戸に近く、江戸向けに紀州細川村(和歌山県)で漉かれていた細川奉書という良質な紙の技術を受け入れ、その消費に応えるようになり「細川紙」となりました。細川紙の特徴は丈夫さです。けばだちが生じにくく楮の内側にある長い繊維繊維が絡み合い丈夫な紙になります。
用途は、書道用の半紙や版画紙、障子紙や掛軸の裏紙、また和傘、ちょうちん、紙の器など、その用途は多岐にわたります。

埼玉伝統工芸会館

 

伝統的工芸品に指定されている和紙

ユネスコに登録されている和紙以外に、伝統的工芸品に指定されている和紙があります。
日本三大和紙と言われるにが越前紙、美濃紙、土佐紙となり、ユネスコに登録されていない和紙でも素晴らしいものがあります。

>過去の記事「伝統工芸品って現在何品目あると思いますか?」

 

内山紙

長野県飯山市、下高井郡野沢温泉村、下水内郡栄村。
江戸時代初期に、美濃で製法を身に付けた職人が自分の家で漉いたという説と、狩りをしながら山を移動して暮らすマタギたちが、移動中に会得した技術で山野に自生する楮を使って漉いたなど言われています。
内山紙の名はその地名から付けられたもので、多量の雪で楮を晒(さら)して白くする「凍皮」、雪晒し等、独特の技術で作り上げます。内山紙の特徴は、この雪にさらすことで雪が溶ける際に発生するオゾンが持つ漂白効果によってコウゾの皮が白く漂白され、白い和紙になるのが特徴です。

内山紙協同組合

 

越中和紙

富山県朝日町、八尾町、平村周辺。
宝亀5年(744年)に書かれた「図書寮解(ずしょりょうげ)」に紙の産地として越中が記述されています。江戸時代の1688年~1704年(元禄年間)には、藩主により売薬が奨励されるようになり、越中和紙は薬包紙(やくほうし)や顧客名簿である懸場帳(かけばちょう)、薬売りが持ち歩く鞄の素材としての需要が高まったものです。越中和紙は、五箇山和紙(ごかやまわし)、八尾和紙(やつおわし)、蛭谷和紙 (びるだんわし)の3つの生産地で製作されている和紙を総称して言われ、産地ごとに少しずつ用途が異なっており、さまざまな種類の和紙があります。

富山県和紙協同組合

 

美濃和紙

岐阜県美濃市。
美濃和紙は機械で漉く和紙を含め、美濃で作られた和紙全般のことを指します。ユネスコに登録されている楮と一部の職人による手漉きで漉かれたものが本美濃紙になります。美濃和紙の特徴は、柔らかみがあるのに強靭であることです。

美濃和紙ブランド協同組合

 

越前和紙

福井県越前市。
日本に紙が渡来した4~5世紀頃には既に越前和紙が作られていたと言われており、今から1500年程前、この村里の岡太川に美しい姫が現れて紙漉(す)きの技を教えたと伝えられています。奈良時代には、仏教の経を写すための写経用紙として重用され、その後、紙漉きの技術、生産量も向上して「越前奉書」等高い品質の紙が作られるようになり、紙の産地として幕府や領主の保護をうけて発展しました。越前和紙の特徴は原料に楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・雁皮(がんぴ)を使用し、それぞれの特徴にあった和紙をつくりあげるところです。

福井県和紙工業協同組合

 

因州和紙

鳥取県鳥取市佐治町、青谷町。
8世紀半ば奈良時代の正倉院文書の中に因幡の国印が押された和紙が発見されています。生産は年を追って盛んになり、1600年頃には御朱印船貿易によって海外にまで輸出されていました。因州和紙の原材料である楮(こうぞ)と雁皮(がんぴ)が、亀井侯文書に「切ってはならない木」と記されており、貴重な産品として鳥取藩の手厚い庇護を受けていたことは、紙すきの労働唄として江戸時代から代々伝わる「紙すき唄」として残っています。因州和紙の特徴は、原料は楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(かんぴ)で、「因州筆きれず」と言われ「他の和紙で一枚書くうち二枚書け、滑らかで早く筆がすすむから墨も減らない」言われています。伝統的技術を基礎とした新しい製品の開発に力を入れ、画仙紙は日本一のシェアを獲得しています。

鳥取県因州和紙協同組合

 

阿波和紙

徳島県吉野川市、三好市、那賀郡那賀町。
8世紀初めに天日鷲命(あめのひわしのみこと)を祭る忌部族が麻植の地(現在の徳島県吉野川市)に入国したときに始まるとされています。阿波忌部氏(あわいんべし)が麻や楮(こうぞ)を栽培し、紙の製造を行っていたという記録があることからも、奈良時代にはすでに和紙の製造が始まっていたのではないかと考えられています。阿波和紙の特徴は、原料は、楮(こうぞ)、雁皮(がんぴ)、三椏(みつまた)の靭皮繊維(じんぴせんい)ですが、これ以外に麻や竹、桑なども用いられ、薄くても水に強くて破れにくい丈夫な紙質です。
現在、伝統的な和紙の持つ風合いに現代の技術を融合し、インクジェット用の和紙、針金を通したインテリア用の和紙、耐水性のある和紙など、新しい試みを取り入れた和紙の開発も盛んに行われています。

阿波和紙伝統産業会館

 

石州和紙

島根県浜田市。
石州和紙は昭和44年(1969年)国の重要無形文化財に指定を受け、平成元年(1989年)に経済産業大臣指定の「伝統的工芸品」にこの「石州和紙」が指定を受けました。その後、日本の和紙でいち早く平成21年(2009年)、ユネスコ無形文化遺産の保護に関する条約に基づく「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」に「石州半紙」が記載されたものです。石州和紙は楮以外の雁皮(がんぴ)、三叉(みつまた)なども使用します。

石州半紙技術者会・石州和紙協同組合

 

大洲和紙(おおずわし)

愛媛県喜多郡内子町・西予市野村町。
伊予の紙は延喜式に出ており、正倉院文書にあるほど歴史が古く、島根県高津神社に伝わる国東治兵衛の著書『紙漉重宝記』によれば「万葉の歌人柿本人麿呂岩見の国の守護として紙漉の技を起こしその術たちまちにして伊予の大洲に伝われり」と記されております。佐藤信渕の経済要録巻10によれば、大洲和紙は大阪に出荷し品質日本一として大いに声価を高め、現在では高級和紙としての地位を確立しています。 大洲和紙の特徴は、薄くて強く、漉きむらがないという評判から書道用紙は質量共に日本一と言われ、3~4年たって枯れた状態の書道半紙は、さらに滑りが良くなり独特の味わいが表現できるそうです。

大洲手抄和紙協同組合(天神産紙工場)

 

土佐和紙

高知県土佐市、いの町。
平安時代の延長5(927)年に完成した「延喜式」の中で、国に紙を納めた主要産地国として土佐の名が登場しています。戦国時代、いの町成山で草木染めの技術を加えて開発された「土佐七色紙」は、土佐藩から将軍家への献上品として保護されることとなり、これによって土佐和紙の名が広く知られるようになりました。
土佐和紙の特徴は、種類の豊富さと品質の良さ。他の和紙と比べて薄くて丈夫であるということです。土佐典具帖紙など厚さわずか0.03mmの手漉き和紙は、世界でも類を見ません。

高知県手すき和紙協同組合

 

いかがでしょうか。
各産地により環境が異なることや原料、技術により様々な特徴があります。また、伝統的工芸品は進化を続けいます。産地ごとに比べてみたり、自身に合う、または用途にあった和紙を見つけてみるのも楽しいかも知れません。全国各地に手漉き和紙は残っていますので、旅行先などで”和紙”という言葉を見かけたら触ってみてはいかがでしょうか。