伝統工芸の職人さんが集中して、細かい作業をしている様子は圧巻です。

この長い時間、集中できる力の源はどこからくるのでしょうか。

作業に没頭し完全にのめり込んでいる状態で、精力的に集中し成功しているような精神的な状態を「フロー」と呼ばれます。

スポーツ業界では選手が「ゾーン」に入ったという言われ方もしたり、

日本語でも無我の境地、忘我状態と呼ばれます。

この「フロー」とは「フロー理論」にあり、1968年にチクセントミハイのクラスで学生が「大人の遊び」 をテーマにインタビューをした際に「フロー現象」が発見されたものです。

「フロー現象」は、行為に見出される「楽しさ」が 動機付けとなり、この楽しい感情が内的報酬となっ て次の行動への動機付けとなるながれが生まれ没頭する心理状態になることから、ながれに運ばれているように見え「フロー(Flow)」と名付けられました。

フローは、目標と現実とが同調し、行為がなめらかかつ効率的になっていきます。そして、その当人の能力を伸ばす方向に発展していくようになっていきます。これには苦痛というものはなく、ポジティブな思考で行為が進められるため、伝統工芸やアート活動のような創作だけではなく、ビジネスや学習などいろいろな面で活かすことができます。

 

フローに入るための条件

チクセントミハイは、次のような7つの条件を挙げています。

  • 明確な目標
  • フィードバック(どのくらいうまくいってるか)
  • 挑戦と能力のバランス(優しすぎず難しすぎず)
  • 行為と意識の融合(大きな何かの一部であると感じる)
  • 注意の散漫回避
  • 日頃の現実から離れる
  • 自己目的経験としての創造性(活動の本質的な価値)

これらいくつかの条件が組み合わさって、フロー状態になると考えられています。

これらの条件から、わたしたちの生活においても「迷いのない目標と活動への意義」「コントロ ール感を伴った没頭」「自身の存在価値」「探究心」などでフローが得られると考えられます。

チクセントミハイは、フロー体験によって「差異化」と「統合化」がもたらされ、自己は複雑化すると言っています。

これは、フロー体験により充実感や有能感がもたらされることで、人はより独自性をもち、個性的な価値をも つ能力の獲得に夢中になります。

差異化は個性といったキャラクター化していくことにつながり、自身の居場所、存在価値を感じることができます。

そして、自身の存在価値や目標、目標に向けた行為に対するフィードバックが明確にされることで、モチベーションアップや成長につながっていきます。

 

気づきでフローへの動機づけ

フロー状態になるということは、モチベーションアップや成長につながっていきますが、フロー状態にするには、挑戦と能力のバランスが重要になってきます。

これは、課題が高すぎると解決できる能力がなく、フィードバックがうまくいかず不安や悩みにが生まれ、行為と意識の融合がされずフロー状態にはなりません。

挑戦に対して、負けず嫌い、好奇心旺盛、使命感などでカバーできる場合もありますが、能力以上の飛躍を求めることは挫折してしまう可能性があります。

伝統工芸の現場でも、料理の現場でも下積みとされるものは、このような段階を踏んだ課題をこなすことでフロー状態にもっていくことができることを、長い年月を重ねて体系化されてきたんだと考えられます。

技術だけではなく精神力も兼ね備えた能力に見合った段階を踏むことで、良質な「気づき」というフィードバックを得られることができます。

「気づき」は解決のための発見と展開で起こります。

その本人が発見できる能力が備わっているか、または一歩先に進められる技術があるかで「気づき」は起こります。

よって、あまりにも高い課題では「気づき」が起こりません。

成長及びモチベーションアップにつながるフロー状態にするには、「適度な目標」「フィードバック」「適正なスキル取得ステージ」を考える必要があります。

社内教育、子育て、師弟関係など、さまざまなシーンでフロー状態へもっていく気づきコミュニケーションが必要になってくるかと思います。

相手をフロー状態にしたい場合には、よく相手を知ること。

自身がフロー状態にしたい場合には、まずは日頃の現実から離れてみることが第一歩になってくるでしょう。

 

参照文献: “Creativity, Flow and the psychology of discovery and invention” , Mihaly Csikszentmihalyi(1996),  「クリエイティヴィティ―フロー体験と創造性の心理学」浅川希洋志監訳 世界思想社、 2016年
生活科の「気付き」の質を高める 授業改善の理論的構築 酒井隆光小川哲男